初夏の東京に、ファンタスティックな氷山が!?
2010年6月、代々木体育館で行われたシャネルの2010/11秋冬コレクション。
そこには大きなサプライズが待っていた。北極の氷山をイメージした舞台セットが、青白いスポットライトの中に浮かび上がっていたのだ。シャネルのデザイナー、カール・ラガーフェルドが今年の秋冬のクリエイションのテーマに選んだのは、北極への小旅行。
氷の女王か、はたまたかわいいシロクマか?
観客の想像力を刺激するファールックが次々と登場した。けれどもファーはすべてフェイクファーであるという。それはココ・シャネルへの敬意をこめた、真のファッション革命を想像させる。ラグジュアリーブランドのリッチな冬の定番、ファーアイテムをフェイクファーに変えてしまったのだから。
ヨーロッパでは環境問題、CO2削減への取り組みが厳しい課題となっていて、“北極”や“ポーラーベア”は、環境論争のアイコンにもなっている。しかしシャネルは正義を振りかざすことなくさらりとイメージソースに取り入れている。またあえてフェイクファーを使い“ファンタジー・ファー”とオシャレに命名することで、そこに新たな価値を見出している。
いま時代が求める社会的責任を、さらりとファッションに置き換えてしまうやり方は、かつてココ・シャネルが成し遂げた手法にも似ている。女性をコルセットから解放するジャージードレスをデザインしたり、宝石ではなくフェイクのアクセサリーを着けることで、真の美しさをアピールしたココ・シャネル。それと同様に、カール・ラガーフェルドのフェイクファーは、いまの女性の真の美しさを問う新しいアイテムじゃないかと思う。
「ファーはフェイクだが、デザイナーはリアルだ」
インタビューに答えたカール・ラガーフェルドのその言葉に、まったく共感してしまった。